文化審議会文化財分科会世界文化遺産特別委員会による調査・審議結果

「城下町金沢の文化遺産群と文化的景観」
総合的評価 → 「暫定一覧表候補の文化資産」カテゴリーTbに該当
 城下町の町割や、城郭・庭園・街路・寺院群・用水網など城下町を構成する資産とともに、その中で伝えられた伝統的な文化や工芸技術等に関連する資産など、城下町に係る多様な要素からなる資産である。
 近世城下町の都市の骨格を成す諸要素のみならず、寺院群の景観及び伝統的な町並みや伝統文化が継承されており、城下町及び伝統的な文化や精神が融合した文化資産群及び文化的景観として、価値は高い。
 なお、近世の城郭及び城下町関連の文化資産については、我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり、比較研究に基づく他の同種資産との組合わせにより、将来的な記載の候補となり得るか否かについて十分に検討することが必要である。

課題等
  • 顕著な普遍的価値
  • ○ 世界史的・国際的な観点から、近世日本の城下町を基盤として発展を遂げた都市遺産の代表例・典型例として、本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。
  • ○ なお、本提案と同種資産との比較研究を進めることにより、近世の城郭及び城下町関連の文化資産が顕著な普遍的価値を持つか否かについて、十分に検討することが必要である。

  • 今後の課題
  • ○ 当面、近世の城郭及び城下町関連の文化資産に関し、専門家による学術的な調査研究を十分に行い、主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で、関係地方公共団体により準備を進める必要がある。
  • ○ その際、顕著な普遍的価値の証明の観点から、本資産や関係資産の遺存状況にも留意しつつ、城郭と城下町を総合的に評価することが適切であるのか、又は記念工作物としての城郭と都市遺産としての城下町とを区別して評価することが適切であるのかについて、十分な検討を行うことが必要である。
  • ○ また、城下町については、日本の城下町の類型・発展過程を明らかにしつつ、城下町の空間構造、成立条件となる社会・経済的な諸要素などの観点から、世界史的・国際的かつ詳細な比較研究を行うことが必要である。
  • ○ 真実性・完全性の観点から、以下の点について確実に課題を解決することが必要である。
    • ・近世の城下町が近・現代に変容を遂げる過程で、都市の構成要素である個々の建造物や庭園等の真実性が確実に継承されてきたか否かについて詳細に検討すること。
    • ・近世の城下町が近・現代に変容を遂げる過程で、街路・街区などの骨格、居住区分形態、成熟した都市文化を示す諸要素などの観点において、都市全体としての完全性を継承しているか否かについて、詳細に検討すること。
  • ○ 文化財としての保護が十分でないものについては、指定・選定又は追加指定等を行うことが重要である。
  • ※ 石川県は、08年度から大学などの研究機関に委託し、「城下町絵図による金沢の町割・街路等の変遷に関する基礎研究」と「城下町金沢の経済史的位置に関する基礎研究」に着手している。金沢市は09年度、日本の他の城下町との比較研究を、専門家に委託。世界の近世都市との比較研究も実施する予定。

(注)カテゴリーT=我が国の世界遺産暫定一覧表には未だ見られない分野の資産であり、顕著な普遍的価値を証明し得る可能性について検討すべきものと認められるが、主題・資産構成・保存管理等を十全なものとしていくためには、なお相当な作業が見込まれるため、世界遺産暫定一覧表記載には至らないと評価されるものである。(以下略)
b=提案地方公共団体を中心に、当面、主題に関する学術的な調査研究を十分に行い、主題及びこれに基づく資産構成に関して一定の方向性が見えた段階で、関係地方公共団体により準備を進めるべきもの。



「霊峰白山と山麓の文化的景観−自然・生業・信仰−」
総合的評価 → 「暫定一覧表候補の文化資産」カテゴリーUに該当
 世界有数の豪雪山岳地帯である白山の山麓一帯は禅定道を機軸に結ばれ、白山信仰を広めた御師の集落や木材、養蚕、焼畑などに支えられ、商品経済が展開されるなど、山村の生活文化が培われた。また、白山は擬死再生の山とされ、山麓には白山信仰と結びついた真宗の信仰が浸透し、環境に適合した伝統的な建築物や季節ごとの芸能などが生まれた。
 白山信仰を基盤として形成された独特の生活・生業の土地利用形態が見られ、時代を超えて人間と自然との共生の在り方を表す文化的景観として、価値は高い。

課題等
  • 顕著な普遍的価値
  • ○ 世界史的・国際的な観点から、山岳信仰と山麓の文化的景観の代表例・典型例として、本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。

  • 今後の課題
  • ○ 世界史的・国際的な視点に立ち、山岳信仰と山麓の文化的景観の全体像を明らかにする観点から、同種資産との比較研究を進め、適切な主題の設定や資産構成について検討することが重要である。
  • ○ 文化財としての保護が十分でないものについては、指定又は追加指定等を行なうことが重要である。

(注)カテゴリーU=今回の提案内容をもとに世界遺産を目指す限りにおいては、現在のイコモスや世界遺産委員会の審査傾向の下では、顕著な普遍的価値を証明することが難しいため、主題の再整理や構成資産の組み換え、更なる比較研究等が必要と考えられる資産である。(以下略)


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