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卯辰山山麓寺院群

 金沢には、卯辰山・小立野台・寺町台の三つの台地丘陵と、その間を流れる犀川・浅野川による自然地形を巧みに生かした特有の都市空間が形成されている。その中でも、1616(元和2)年、3代利常の時代に形成が始まった、三つの台地丘陵に配置された寺院群は、金沢の貴重な歴史遺産の一つとして特筆すべきものである。
 3寺院群の配置の大きな特徴は、城下への入口の要所である浅野川口(卯辰山山麓寺院群)と犀川口(寺町寺院群)に加えて、金沢城の背後に広がる小立野台(小立野寺院群)に一向宗(浄土真宗)以外の寺院を集積させていることである。
 このことから、城下の弱点となる部分を補強し、かつ当時勢力があった一向宗寺院を城下に分散配置することで、再び一向一揆が起きないよう配慮したことがうかがわれる。城下の防御が、3寺院群形成の主目的であったと考えられている。
 寺院群の形成は、金沢の都市としての基本的な骨格が形成される17世紀の後半まで続くことから、城下町金沢の都市計画や都市形成に大きく関わっていたともいえる。
 「城下町金沢」の文化庁への提案書では、3寺院群のうち、卯辰山山麓寺院群と寺町寺院群を構成資産としている。
 【卯辰山山麓寺院群】
 日蓮宗寺院を中心に40カ寺以上を数える。金沢市は寺院群を含む山麓地区約20ヘクタールを対象に重要伝統的建造物保存地区としての選定を目指している。
 卯辰山の麓に広がる寺院群であり、国道159号(旧北国街道)から卯辰山に向かって延びる細い道筋に沿って日蓮宗寺院を中心に寺院がある。一見無秩序な配置に見えるが、宗派ごとにまとまりが見られることから、当時の計画性をうかがうことができる。
 1759(宝暦9)年の大火により寺院群も大きな被害を受けたが、起伏に富んだ地形とその間を縫うように複雑に巡る細い街路網は、今でも藩政時代の姿を色濃く残している。
 現在残る寺院は、比較的小規模なものが多く、装飾が施された妻面を正面に向けた寺院が多く見られるのも大きな特徴である。
 文化財として評価されている建造物も多く、全性寺山門、妙国寺山門、本光寺山門、蓮昌寺山門、妙泰寺山門、西養寺本堂・鐘楼は金沢市の有形文化財(建造物)に、心蓮社庭園は金沢市の名勝に指定されている。
 また、地形的な特徴から生み出された魅力的な要素として、歴史的な石積みや山門へ至る石段、坂道、坂上からの眺望などもあげられる。
 金沢市は、卯辰山山麓における数多くの魅力を巡る散策ルートを整備し、「心の道」と名付けた。「心の道」を歩くと、小路に面して立地する寺院と町家が混在する様子など、寺院群の持つ様々な魅力を複合的に感じ取ることができ、趣のある景観を楽しむことができる。
 卯辰山山麓寺院群は、全国的に見ても大変貴重な歴史遺産である。

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